僕がコンピュータをはじめて買ったのは、祖母がまだ少女で恐竜がいたころのことだが(恐竜がはいってこないよう犬を飼っていた)
、その当時(1994年当時)、Macintoshを買えばついてきたのは、最近はやりのJISキーボードではなく、アメリカはANSI配列、一般にUSキーボードと呼ばれているものでした。
USキーボードというのは、キーのレイアウトもさることながら、記号の位置なんかがJISキーボードと違っているせいで、今でもこれでなきゃいやだという人がいる、ある種特別なキーボードなのです。JISキーボード全盛になってからMacintoshを買った人は仕合せかも知れない。けれど僕はぎりぎりそれ以前に含まれるユーザなので、Macintoshを新しく買おうとすれば、その度面倒なことになります。実際、前のiBookは、USキーボード交換プログラムが用意されているというから買ったにもかかわらず、結局そのアナウンスは反故にされて、当時僕はかなり頭に来てたのですが、時が解決してしまいました。慣れたんです。JISに。世間に出れば、まずどこでもJISキーボードです。USキーボードを置いてるところなんてありゃしません。なので、世間の(主に)Windows機に触れることを考えれば、自宅のコンピュータもJISの方が都合がいいのです。
ですがこのところアップルはようやく理解してきたのか、数年前のモデルからBTOに限りキーボードをJIS、USの二種類から選べるようになっています。アレルーヤ! でもそうなってくると、今既にJISに慣れた指に、再びUSキーボードに帰れというのいうのか、そういった問題がかかってきます。
僕は、iBook G4購入に際して、キーボードの選択を迫られることになったのです。
端的に結果を申しますと、僕が選んだのはUSキーボードです。なぜか? たいした理由はないのです。ただ、自分が以前が行おうとしたこと、それに殉じようとしただけです。
僕はいうまでもなく、始めのiBookを使いながらも、常にUSキーボードを夢見てきました。僕がコンピュータを使い数年、慣れ親しんできたのは実にUSキーボードでした。はじめてこととねを開いたときはUSキーボードでした、あの論文の苦難を越えたのもUSキーボードをともにでした。HyperCardに触れ、ネットに参入し、試行錯誤とともにMIDI環境を整え、いわば今の僕の基礎をはぐくんだのは68k時代のMacintoshであり、その時築かれた資産が今の僕の職業を支えています。そして、そこにあったのはUSキーボードでした。
USキーボードを選ばせたのは、括弧の位置や@、その他記号の位置もそうですが、それ以上にキーボードへの愛でありました。偏愛、物神崇拝といわれてもかまいません。指に触れるもの、そこに妥協するのはやはり許しがたかったのです、グールド主義者としては。
というわけで、USキーボードを選択したのは、いわば思想信条のためであり、他の第三者に納得させられるような理由はないのでした。だから僕はUSキーボードを人には勧めません。
さて、それほど違うというUSキーボードの配列とはどんなものなのでしょうか。以下に、キーボードビューア(旧キー配列、Pantherからは言語環境に引っ越しました、というか死ぬほど探しました)で取得できる、キーボードの配列をちょっぽくさご紹介いたしましょう。
細かく見ていただければ、アクセント記号も見えると思います。これが先行入力されるキーという訳ですね。
さて、USキーボードの利点とはなんでしょうか。まず一点に、Commandキーの使い勝手のよさをあげることができます。
MacintoshにおいてCommandキーとは、キーボードショートカット使用時の要であり、もっとも利用されるキーのひとつと断言してまず間違いはないでしょう。そうです。Macintoshでは、コピーもカットもペーストも、セーブや閉じるや終了も、Commandキーを軸にして操作するのです。
Windowsにはこれらショートカットに用いることのできるメタキーがAltとControlの二種類しかなく(厳密には左Altと右Altは違うから、三種類なんだけど)、キーボードショートカットの可能性に関してはMacintoshに一日の長ありです。
そして、その頻繁に用いられるCommandキーは、USキーボードだと右側にもあるのです。
印刷とかはCommand+Pなので、片手で操作したいときにはUSキーボードの方が便利です。ファイルを開くのもCommand+Oだから同様です。こんなふうに、状況に応じて使い分けられる便利が得られます。
iBookはノート型なので、いわゆるテンキーがついてきません。なので数字入力をするときはキーボード最上列の数字から入れることになるのですが、数字主体の入力のときには少々不便です。
ノートPCを使っている人には分かりが早いと思いますが、そういう用途のためにノートPCではNumber Lockをかけると右手守備範囲のキーがテンキーとして使えるようになっています。ですがNumber LockはOn/Offでそのつど二回押す必要があり、ちょこっと合間にテンキーを使いたいときには少々不便。
そういうときにはファンクションキーを使えばいいのです。
ですがJISキーボードでは、なんでか知らないのですがファンクションキーが右側についてきます。さっきもいいましたが、テンキー的機能を担っているのは、右手の守備範囲です。つまりここにJISキーボードのファンクションキー戦略の破綻が見られるのです。実用的かどうかを問わば、使えたもんじゃないのがJISキーボードのファンクションキーなのです。
同様に、iBookにはカーソルキーにHomeやEnd、Page up、Page downが割り当てられてるのですが、これを使用可能にするのはファンクションキーです。カーソルキーは右下隅です。ファンクションキーはその側です。つまり右手でファンクションキーを押して、右手でカーソルキーを押さなければならない。あるいは左手を右手の守備範囲まで持っていけというのでしょうか?
はじめて前回のiBookでJISキーボードに触れたとき、この仕様には正直頭が痛かった。結局ファンクションキーを使ったテンキー的挙動はほとんど使うことがなく、普通に最上列を使うようになったので問題はなくなりました。ただHomeやEndを使いたいときは(あまりないとはいえ)、ファンクションキーを使っていたので、少々不便ではありました。
そしてUSキーボード最大の利点はキーボードショートカットの便利にこそあります。
私たちが普段使っているソフトの大部分は、国産ではなく海外、主にアメリカ製です。例えばPhotoshop、いいソフトですね、僕はうまく使えませんけど。そしてIEやSafariといったブラウザ、極言すればOSそのものもアメリカ製です。こういったアプリケーションは、キーボードショートカットを考える際にUSキーボードを前提としているため、JISキーボードでは使えないショートカットも出てくるのです。
例えば、僕の使っているソフトではDreamweverがそうでした。ビューの切り替え(Wysiwygエディタとコードエディタの切り替え)に割り当てられているショートカットがCommand+`であり、しかしこれはJISキーボードでは押せません。`はシフトキーを押しながら@で、そのシフトキーを押す動作が、このショートカットを有効にしないのです。
しかも悪いことにDreamweaver MXでは、ビューの切り替えのショートカット割当を変更しようとしても反映されないという問題があります。割当変更をしようとすれば設定ファイルに直接手を加えなければならず、最初っから初心者向けでないソフトとはいえ、これはあんまりです。でも、僕にはこのショートカットは必要だったので、その手段でやっつけていました。
ですが、USキーボードではその必要がないのです。なぜか。単純な理由でして、USキーボードは`を1の左隣に持っているためです。
Macintosh用Internet Explorerの、ウィンドウの切り替えショートカットはCommand+~なので、これまでJISキーボードではCommand+Shift+……どこだっけ? へですね。実質Command+Shift+へとやる必要がありました。それがUSキーボードではCommand+`です。僕はIEを使いながら、なんでこんな変なショートカットなんだろうと思っていましたが、USキーボードに帰ってきて腑に落ちました。Command+`ならなんのおかしさもありません。
このように、アプリケーションによってはUSキーボードであるほうが自然であることも、またものによってはUSキーボードでないと使い切れないものもあるのです。
で、再びマイキーボード問題です。いく先々のキーボードはまず例外なくJISキーボードで、自宅の環境と異なってストレスのたまるという問題はどう解決しようというのでしょうか。キーボードを買ったのでしょうか?
いえいえ、マイキーボード計画を思い立って早二年、僕も成長しています。Windowsもだんだん分かってきました。
単純なことで解決できます。支給されたノートPCのキーボードドライバを、日本語向けの106キーボードから、101キーボードに変更すればいいだけでした。確かにキーボードの形こそ違いますし、それにより\(バックスラッシュあるいは円記号)の位置も少し違っていますが、でもそれくらいはなんとでもなります。
というわけで、出先では見た目JISキーボード、中身USキーボードで頑張っております。
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